最近では、女性の社会進出が進んでいることから、夫婦で住宅ローンを組むケースはもちろんのこと、シングルである女性が自身のマイホームを購入するケースも増えています。
かつては「独身の女性は住宅ローンの審査が難しい」と言われることがありましたが、現在では女性向けの特典が組み込まれた住宅ローンを提供している金融機関も多く存在します。
今回は、女性がより借り入れしやすい住宅ローンについて紹介しながら、住宅ローンの審査において重視されるポイントや、妊娠時に住宅ローンを組む際の注意点についても解説していきます。
女性でも住宅ローンは利用可能?
現代の日本では、住宅ローンの申し込みや利用において、女性であるという理由だけで制限されたり、不利な扱いをされたりすることはありません。
こうした主張を裏付ける具体的なデータが存在します。
例えば、国土交通省が発表した「令和2年度 民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」がその一つです。
この報告書では、ジェンダーによる住宅ローンへのアクセスや利用において、明確な差別は存在しないことが明らかにされています。
審査では性別は問われない
アンケート調査によると、金融機関における融資審査の際に考慮される項目について聞いた結果、ほぼ全ての金融機関(99.1%)が「完済時の年齢」、「健康状態」、「担保評価」、「借入時の年齢」、「年収」、「勤続年数」、「連帯保証」などを審査項目としていることがわかりました。
「性別」を審査項目と位置する金融機関はわずか17.5%に過ぎませんでした。
このデータから、ほとんどの金融機関では住宅ローンの審査においては性別が重視されないことがわかります。
ただし、非正規雇用であったり、年収が低かったり、転職してから1年未満である場合は、安定した収入がなく返済が難しいと判断され、女性だけでなく男性も住宅ローンの審査に通過できない可能性があります。
つまり、性別そのものが審査の結果に直接的に影響を与えるわけではなく、返済能力に関わる要素が問題とされるのです。
シングル女性の住宅購入は増加
リクルートによると、「2022年首都圏新築マンション契約者動向調査」によると、過去5年間でシングル女性世帯の割合が2倍に増加しているという結果が出ています。
このデータは、今や住宅ローンの審査において「性別」が特に重要視されることはなくなっており、女性のニーズがますます高まっていることを示しています。
この調査結果は、女性が独立し自立する傾向が高まっていることや、女性の社会進出が進み経済的な自立を望む女性が増えていることを反映しています。
以前と比べて、女性が住宅を購入する意欲や能力が高まっており、それに伴い女性向けの住宅ニーズも増えていると言えます。
住宅ローンの審査では、収入や信用履歴などの要素がより重要視されます。
これまでの固定観念や偏見にとらわれず、現在では個人の経済的な条件や返済能力が評価されています。
つまり、性別による差別的な見方は徐々になくなってきています。
これらのデータをもとに、女性のニーズが高まっていることは住宅業界にとって重要なポイントとなっています。
女性向けの住宅商品やサービスを提供することで、需要に応える企業が増えてきています。
したがって、今後ますます女性の住宅購入ニーズが増えることが予想され、市場で女性に対応したビジネスチャンスが広がっていくでしょう。
住宅ローンで審査されるポイント
登場したデータからも、住宅ローンの審査において「性別」は特に重要視されず、他の項目がより注目されています。
では実際の審査では、どのような項目が重点的に見られるのでしょうか。
以下、順番に解説します。
完済時年齢
住宅ローンを組む際には、契約規定に「完済時年齢」というものが設けられています。
これは、ローンが完済される時点での年齢の上限を示しており、一般的に金融機関では「満80歳未満」という条件が設定されています。
ただし、例外としてソニー銀行などのネットバンクでは、満85歳未満である場合もあります。
例えば、ある人が45歳で最長返済期間35年の住宅ローンを組むとします。
この場合、80歳まで返済が続く計算となります。
しかし、同じ条件で契約を行う場合でも、50歳で契約すると最長返済期間内ではローンを組むことができません。
なぜならば、完済時の年齢が80歳未満でなければならないため、返済期間が30年に短縮されるからです。
返済期間が短縮されると、毎月の返済額が大きくなるため、老後の家計に負担をかける可能性が出てきます。
健康状態
金融機関は、住宅ローン契約者に対して必ず「団体信用生命保険」、通称「団信」への加入を求めています。
団信とは、住宅ローンの返済中に契約者が亡くなったり高度障害になった場合、ローンの未払い残高を代わりに支払ってくれる生命保険の一種です。
そのため、住宅ローンを申し込む際に健康状態が良くない場合や持病がある場合、団信への加入ができないことが多くあります。
特に女性の場合、妊娠中に住宅ローンを申し込んだ場合、団信への加入ができない可能性もあるのです。
次の章では、妊娠中に住宅ローンを利用する際の注意事項について、詳しく説明していきます。
物件の担保評価額
住宅ローンを借りる時に、物件が担保になること(抵当権の設定)は知っていますか?もしローンの返済が何かの理由で滞ってしまった場合、金融機関は物件を売却する権利を行使することができます。
担保評価とは、金融機関が物件の価値を評価し、その価値を担保としてどれだけ使えるかを判断することです。
物件によっては、担保評価額を超える融資を受けることはできません。
例えば、物件の価格が4000万円で担保評価額が2500万円の場合、2500万円以上の融資は受けられません。
特に、築年数が古く、旧耐震基準で建てられた物件の場合は、担保として適していないと判断され、住宅ローンを組むことができなくなる可能性もあるので、注意が必要です。
旧耐震物件とは、1981年5月31日までの建築確認基準に適用されていた基準で建てられた物件を指します。
借入時年齢
住宅ローンには、完済時の年齢に制限がありますが、借入時の年齢にも制限があります。
ただし、金融機関によって借入時の年齢制限は異なり、「65歳未満」や「70歳未満」などの条件が設定されています。
定年退職後に住宅ローンを組むことを考えている方は、この借入時の年齢制限にも注意する必要があります。
なぜなら、借入時の年齢が高くなると、返済中に所得が年金のみになり、その年金から返済しなければならなくなる可能性があるからです。
このような状況では、「返済能力が低い」と判断され、希望していた借入金額よりも少ない金額しか融資されないこともあります。
したがって、審査が通りやすいことや、退職後も毎月一定額の返済が必要であることを考慮すると、できるだけ若い年齢で住宅ローンの申し込みをすることをおすすめします。
年収
住宅ローン審査において、借り入れ可能な年収の基準は金融機関によって異なります。
一部の金融機関は、「年収200万円以上」と具体的な数値で示していますが、他の金融機関は「安定した年収がある方」といった具体的な数値を記載していません。
ただし、非正規雇用の場合でも、継続して収入を得ている実績があれば、審査に通過することがほとんどです。
実際、一部の金融機関では、パートやアルバイトでも安定した収入があれば、また全期間固定金利の「フラット35」なら年金収入だけでも、借り入れが可能です。
金融機関では、融資の判断基準として、借入金額が年収の何倍かという基準を算出し、審査を行っています。
この基準は「年収倍率」と呼ばれ、一般的には5~6倍が適切とされています。
例えば、年収400万円の女性が希望借入金額を3000万円とした場合、年収倍率は7.5倍となり、適切な範囲をやや超えてしまいます。
この場合、年収倍率が高いほど、住宅ローンの返済が困難になる可能性が高く、借り入れ可能な金額が少なくなることがあります。
勤続年数
住宅ローンの審査では、働いている期間も非常に重要視される要素です。
以前は、「勤続年数3年以上」が好ましいと言われていましたが、最近では一般的に「2年以上」が求められています。
特に女性の場合、結婚や出産、子育てをきっかけに仕事を辞める人や、正規雇用から非正規雇用である派遣社員などの働き方を選ぶ人が増えています。
もし現在の職場での勤続年数が短い場合、金融機関からは「職歴書」の提出を求められることもあります。
ただし、転職して間もなく勤続年数が短い場合でも、それだけで審査に通過できないというわけではありません。
しかし、できるだけ1年以上働いてから、住宅ローンの申し込みを行う方が良いでしょう。
妊娠中に住宅ローンを利用するときには注意
住宅ローンの審査は、妊娠中であるかどうかによって金融機関によって異なる段階になります。
一部の金融機関では、妊娠中であることがリスク要素と見なされる可能性があります。
そのため、審査が通りにくくなるかもしれません。
妊娠中に住宅ローンを利用する際には、以下の注意点を押さえる必要があります。
妊娠中の審査は難易度が上がりやすい
産休・育休を取得する際には、復帰の予定が未定であることがほとんどです。
したがって、一部の金融機関は妊娠中(産休中)や育休中には融資を行わない場合があります。
その理由は、申込者が復職の意思を持っていても、保育園がなかなか見つからないなどの事情により、すぐに復帰できない可能性があるためです。
ただし、申込者の属性や就業状況によっては、考慮してくれる金融機関も存在します。
もしペアローンや収入合算でローンの事前審査に通過した後に妊娠が判明した場合は、直ちに金融機関に伝えるようにしましょう。
一般的には、伝えても問題ないケースが多いですが、場合によっては妊娠を考慮して再び審査が行われ、融資額が減額されたり、配偶者一人での契約になったりすることもあります。
団体信用生命保険に加入できない場合がある
住宅ローンを妊娠中に申し込む際には、出産リスクが高い場合、団信に加入することができない可能性があります。
団信に加入できないことは、住宅ローンを組むことができないという状況になってしまいます。
もしかすると、「妊娠していることを銀行や金融機関に伝えなければ、住宅ローンを組むことができるのではないか」と考える人もいるかもしれません。
しかし、妊娠を隠して団信に加入すると、後で大きなリスクを抱えることになります。
まず、妊娠していることを伝えずに団信に入った場合、後で虚偽の申告が発覚し、「告知義務違反」として問題になる可能性があります。
告知義務違反が認められた場合、保険金が支払われずに金融機関に戻されてしまったり、ローン契約が無効になり一括返済を求められることがあります。
ただし、金融機関によっては、妊娠していても問題なく審査を通過し、団信に加入できるところもあります。
ですので、リスクを抱えずに済むためにも、嘘をつかずに正直に申告することが大切です。
また、妊娠中でも住宅ローンを組める金融機関を調べておくことが重要です。
まとめ
近年、社会の変化により、働く女性や女性のマイホーム購入が増えています。
これに応じて、金融機関も女性向けの住宅ローン商品を充実させています。
今回は、特に人気のある3つの商品を紹介しましたが、他にもさまざまな住宅ローン商品が存在します。
自分自身で調査することをおすすめします。
特に出産や育児の予定がある場合は、事前に女性向けの住宅ローンについて調べておくことで、「団信に加入できなかった」といったようなトラブルを回避することができます。
また、長期間にわたる返済が必要な住宅ローンでは、借り入れ後に毎月確実に支払いを続けることが重要です。